音楽(DTM)

DTMとはデスクトップミュージック(Desk Top Music)の略で、パソコンと電子楽器をMIDIなどで接続して演奏する音楽、あるいはその音楽制作行為の総称。"DTP"(デスクトップパブリッシング)をもじって作られた和製英語である。
この言葉が使われ始めた1990年代前半当時狭義のDTMはパソコンの使用を前提とし、かつ日常的な環境においてある程度限定された規模での音楽制作を指す場合が多い。ローランドのSCシリーズ等を始めとする音源モジュールをパソコンと接続し、その音源モジュール1台にボーカル以外のすべての演奏を任せるというシステムがDTMの一般的な形であった。
DTMはパソコンの使用が前提であるため、パソコンを使わず、シーケンサー専用機やシーケンサー内蔵シンセサイザーを単体で使用する場合はいわゆる打ち込みには含まれるがDTMとは通常呼ばれない。
ユーザーが楽曲制作上で中心的に操作するのは演奏データを入力し、自動演奏を行うパソコンのシーケンスソフト[1]である。パソコンのシーケンサーソフト上に表示される譜面に、マウスで音符や休符を置くといった作業、または音源モジュールと接続されたMIDIキーボードを演奏して、シーケンサーソフトにリアルタイム入力をするといった作業によって自動演奏データ/カラオケデータを作成していくのである。
このDTMに対して高価な機材やソフトウェアを導入したり、プロユースに耐えうる本格的なシステムを構築したりする音楽制作の環境をデジタルオーディオワークステーション(DAW)と呼んでしばしば差別化する。ただし昨今のコンピュータの高性能化やソフトウェアの進歩、ハイエンド環境のコストの低下、それらに伴うDTMを取り巻く状況の変化などから、互いの決定的な違いはレコーディング環境程度になってきているとも言える。このため昨今では「DTM」が「DAW」を内包する、より広義な意味で使われる事も少なくない。

注目ワード

生演奏ではなくデジタルの音楽

誕生と規格の制定

初めてDTMという単語が使われた製品は、1988年に発売されたローランドのミュージくんである。これは音源モジュール(MIDI信号等を受信して音声を出力する、鍵盤の無い音源)MT-32とMIDIインターフェイスMPU-PC98、加えてシーケンスソフト(バラードからレコード機能を削除したもの)を同梱したパッケージ品で、箱にDESK TOP MUSIC SYSTEMと記されていた。価格やセットアップの困難さ等のハードルの高さを取り払うことを重視し、パソコンにそこそこ詳しいユーザーであれば誰でも趣味として始められるというコンセプトで発売された。後にDTMにおいてローランドのライバルとなったヤマハは、当初は自社のMSXパソコンに独自の規格の音源/MIDIインターフェイスを接続するパッケージ路線を展開していたため、ホストPCを選ばない汎用パッケージとしてのDTM製品ではローランドの後を追う形となった。この2社と並んで国内のシンセサイザーメーカーとして重要な存在であるコルグは、DTM初期の流れにおいては特別な役割は果たしていない。
MIDIによって電子楽器間の通信プロトコルは統一されたが、MIDIの普及や上記のようなDTMの流れに伴い、MIDI音源の製品ごとの互換性や演奏データの再現度を高める必要性が注目されていくようになる。つまり、MIDI規格の上位層に新たなプロトコルを構築する必要性を意味する。まず1991年にローランドは独自に制定した音源の規格GSに対応した音源モジュールSC-55(Sound Canvas)を発売した。DTM音源の代名詞ともいえる「SCシリーズ」の初代モデルである(後にGMに対応したSC-55mkIIも発売された)。
続いてStandard MIDI File(SMF, MIDIによる演奏データのファイルの標準規格、いわゆる「MIDIファイル」)が制定された。これはシーケンスソフトVisionの開発元であるOpcode社により提唱された。その後、音色の配列の統一やニュアンスの一致を目的としたMIDIの標準規格であるGMが制定される。GMの音色配列は前述のローランド SC-55のキャピタルバンクの音色配列をベースに設定されている。
これに伴ってニフティサーブ等のパソコン通信サービス内でJASRACの認可のもと、商用の曲の音楽データを無料で交換するプロジェクトが始まった。以降、聴き手がGM対応の音源を用意し、配布されているファイルを再生して音楽を楽しむという流れが形成された。これが日本でDTMが確立した大きな要因の一つともいえ、インターネットの普及前であることを考えるとその役割は大きかった。事実現在プロとして活躍するクリエーターにも、このようなパソコン通信での活動を経てきたと公言する者もいる。ローランドのSC-55、続くSC-55mkIIはこの時期においてかなりの認知度を誇った。
対するヤマハはGM対応の1号機として91年にTG100、およびTG100のディスプレイや操作子を省略したCBX-T3を発売しDTM市場に参入する。しかし後発の弱みと、既存のGM対応機器との著しい音色のニュアンスの違いが原因でSCシリーズほどの普及には至らなかった。
また、ヤマハは続いて1993年にTG300というGS互換モード付きの音源モジュールを出すが、割高な価格設定(75000円、ライバル機種としたローランドのSC-55mkIIは69000円)や既にGSが事実上の標準規格になっていたため、やはりローランドの牙城を崩すまでには至らなかった。1994年末にはGMに加えて独自規格であるXGに対応した音源モジュールMU80を発売。結局、GMによって規格が統一されたにもかかわらず、GS(ローランド SCシリーズ)対XG(ヤマハ MUシリーズ)の上位規格の対立構図が形成されることになる。とはいえヤマハはMUシリーズの発表によってSCシリーズのライバル機種として世間に認知されることに成功し、専門誌等でも比較特集が組まれたりするようになった。コルグも05R/WやX5DRといったGM対応のハーフラック音源モジュールをリリースするが、DTM音源というより、ユーザが音色を自在にエディットして本体に記憶できるシンセサイザーモジュールとしての色合いが濃く、この対立構図には加われなかった。
TG300で用意されたGS互換モード(TG300-Bモード)は、以後全てのXG対応音源にも引き続き搭載された。メーカーによる音色の違いはあるものの、一応はXG音源でもGS音源用に作成されたMIDIデータの再生は可能である。しかし、そのGS音源もSCシリーズがモデルチェンジされる度に新しく音色が追加されるため、その全てをXG音源で再現し切ることは不可能である。TG300-Bモードの互換性はSC-55mkIIで作成されたMIDIデータをエディットしなくても、不自然ではなく聞こえる程度に再生してくれるものと考えておいたほうがよいだろう。よってTG300-Bモードで作成したMIDIデータを本家のGS音源で再生すると、鳴り方が作成者の意図したものと異なる場合が出てくる。一方、ローランドもSCシリーズの一つであるSC-88Pro以降のモデルに、非公式ではあるがMIDIデータ内の「XGオン」のメッセージに対応してXG音源をエミュレートする機能を搭載している(もちろんすべてのXG音源をエミュレートするわけではない)。

これからのDTM

一般的なパソコンでもハードディスクレコーディングが可能な性能に追いつき、初心者向けシーケンスソフトでもMIDIだけでなくオーディオを扱うことができるものが多くなって来ている。しかも、ソフトウェア上で高性能なシンセサイザーやエフェクター等をもシミュレート可能になったことで、パソコンとソフトのみでも品質の良い楽曲を制作できるようになる。然るべき機材を用意すれば、演奏を録音したりそれを任意に編集したりといった、一昔前では高価な機材やソフトがなければ行えなかったような作業もある程度可能になった。
かつてはMIDIおよびMIDIファイルがDTMの中心であったが、「DTM」を意識する必要が無くなってきたことから、CubaseやCakewalk SONAR、Digital Performer、Logic等のDAW(これらのソフトも元をただせばATARIやMac上のMIDIシーケンサーソフトにオーディオ処理機能を追加したものではあるが)を選択する制作者も増加し、プロ向けソフトを作ってきたメーカー側も初心者を取り込むための戦略を打ち出している傾向にある。
また、前述のブロードバンドの普及やMP3などの音声データ圧縮技術の普及、およびDTM音源のもつ役割の変化などといった理由により、DTMユーザーにはSCシリーズやMUシリーズ以外の選択肢ができるようになったため、プロ用として設計・製造されたシンセサイザーのモデルチェンジの速さは以前と変わらないにもかかわらず、一方のDTM音源は各社が競って出していた93年から97年頃に比べモデルチェンジは鈍化しており、4〜5年前に発表されたモデルが現行機種であるケースが多く見受けられる。
ヤマハのXG SOUND WORLDが2001年をもって終了し、以前はDTMコーナーを置いていた家電量販店ではそのスペースがPC用スピーカーのコーナーにリニューアルされるなど90年代中頃に比べれば、ブームとしてのDTMは一旦収束した。
しかし2007年に初音ミクが発売され、動画投稿サイトを中心にVOCALOIDブームが起こる。こうした現象をDTMブームの再来と呼ぶ向きもある。
また、通信カラオケや携帯電話の着メロ音源としてDTM音源の規格が利用されているといった形で日常生活にとけ込み、これらの環境は社会のインフラとして定着したとも言える。

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